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​研究紹介

1. 無機−有機複合材料(特に層状化合物)の創製

層状化合物(e.g. 層状複水酸化物:LDH)の層間を有機物イオンにより機能化した無機−有機複合材料を用いた、水溶液中の金属イオン(Li+, Cu2+, Ni2+, Cd2+, Pb2+, Sr2+, Sc3+, La3+, Y3+, Nd3+)、非イオン性有機化合物(ビスフェノールA, フタル酸ジエチル, ベンゼン類, フェノール類, ナフタレン類)の選択的分離・捕捉技術を開発した(Fig.3, Fig.4)。具体的には、有機アニオンの官能基の機能(キレート錯体形成能、疎水性相互作用、π−π スタッキング相互作用)を利用した、水溶液からの金属イオンや非イオン性有機化合物の選択的分離・捕捉に成功した。有機カチオンの官能基の機能を利用することにも成功した。この技術を、プロセス溶液中の有価金 属や有価有機化合物の回収へ応用することを志向している。

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2. 捕捉・還元機能を有する無機材料の創製による重金属の捕捉・濃縮

捕捉・還元機能を有する無機材料を用いた、水溶液中の重金属オキソアニオン(Cr(VI), Se(VI), As(V), Sb(V))の効率的除去を開発した。還元能力を有するFe2+をドープしたMg−Al−Fe LDHが、Cr(Ⅵ)の捕捉に対してMg−Al LDHよりも捕捉能が良好であることを明らかにした。これは、LDH層間でのCl−とCrO42−とのアニオン交換反応に加え、ドープしたFe2+によるCr(VI)からCr(III)への還元に伴うCr(OH)3の生成による(酸化還元反応)(Fig.5)。Se(VI), As(V)除去に関しても同様の機能を発現した。この技術は、処理の難しい排水中の重金属オキソアニオン除去への応用が期待できる。

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3. 水溶液中の各種有害物質の除去

Mg−Al LDHの仮焼により得られるMg−Al酸化物を利用した、鉱酸(リン酸、硫酸、塩酸、硝酸)の新規処理プロセスを開発した。Mg−Al 酸化物が、酸の中和剤及びアニオン種の固定剤として機能することを見出した。塩酸、硝酸処理後に生成するMg−Al LDHについては、そのまま仮焼することにより塩酸、硝酸が生成し、同時にMg−Al 酸化物が再生し、循環利用できることを明らかにした。また、水溶液中のホウ素やフッ素の除去に対して、Mg−Al LDH、Mg−Al酸化物及びMgOの循環利用が可能であることを見出した。Mg−Al LDH及びMg−Al酸化物は、As(V), Sb(V)の重金属オキソアニオンの除去にも有効である。Mg−Al LDH及びMg−Al酸化物は、未だに処理方法が模索されている排水中のホウ素やフッ素の除去に、特に有効であるといえる。

4. 鉱山坑廃水中および汚染土壌の重金属処理とスラッジの低減化プロセスの開発

鉱山坑廃水は通常酸性で重金属を含有するため、排水基準以下まで処理する必要がある。現在、Ca(OH)2による中和法が一般的であるが、殿物発生量が多いため、処分場の負荷増大の原因となり、より殿物発生量の少ない処理法が求められている。本研究では、Mg−Al LDHが鉱山坑廃水中の重金属(Fe, Zn, Cu, Pb, As, Mn, Cd)の処理に有効であり、従来のCa(OH)2処理に比べて殿物減容化効果が高いことを見出した。さらに、鉱山坑廃水中の重金属の処理において、Mg−Al LDH粉末に比べてMg−Al LDHナノシートの方が処理効率が非常に高いことを見出した。実際の鉱山坑廃水処理への実用化が期待される。一方、汚染土壌中のPbについて、キレート反応による抽出および濃縮技術の開発を行っている。

5. 層状化合物用いたガス浄化プロセスの構築

Mg−Al酸化物スラリーが、廃棄物焼却排ガス中のHCl、SOx、NOxの同時処理に有効であることを見出した。Mg−Al酸化物は、CO3•Mg−Al LDHの仮焼により得られる。CO3•Mg−Al LDHが、廃棄物焼却排ガスの処理に利用できれば、処理剤のコスト(仮焼に係る費用)を大幅に減らすことができる。また、NOxは選択的触媒還元法(SCR)が採用されるケースが多いが、SCR効率アップのためにボイラ蒸気による再加熱が行われており、廃棄物発電の効率低下の大きな要因となっている。そこで本研究では、CO3•Mg−Al LDHを利用した廃棄物焼却排ガス(HCl、SOx及びNOx)の新規処理技術を開発した(Fig.6)。この技術は、酸性ガス処理コスト削減と発電効率アップに寄与できる。同時にHCl、SOx、NOx処理できる技術は無く、CO3•Mg−Al LDHは回収・再生が可能であるため、循環利用できる。

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6. 細胞培養培地中の老廃物の吸着プロセス開発

近年、医薬品製造や再生医療などの分野において、細胞や微生物を人工的に効率よく大量培養することが求められている。大量培養が求められる細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)等の抗体産生細胞、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞等が挙げられる。細胞等を工業的に大量培養する方法としては、スピナーフラスコ等の培養槽を用いた浮遊攪拌培養が考えられる。コストの削減を図るためには、細胞等の培養密度を高めることが有効である。しかし、細胞等の高密度化によって培養液(液体培地)中の老廃物(代謝物)の濃度が上昇し、これにより細胞等の増殖活性が低下するためである。細胞等に影響を与える老廃物の代表的なものとしては、乳酸、アンモニアが知られている。細胞等を高密度状態で安定的に増殖させるためには、培養液中に蓄積する乳酸、アンモニアを除去することが望ましい。本研究では、乳酸の吸着剤として、Mg−Al LDH、Cu−Al LDH、Ni−Al LDH、Mg−Al酸化物、Cu−Al酸化物、アニオン交換樹脂が有効であることを見出した(Fig.7)。また、アンモニアの吸着剤として、ゼオライト、プルシアンブルー、カチオン交換樹脂が有効であることを見出した。

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7. 希薄CO2の除去・濃縮・利用プロセスの開発(DAC:ムーンショットプロジェクト)

CO2吸着性の高い無機化合物を合成し、大気中のDACプロセスの開発をすすめ、吸着と同時にCO2をエチレン尿素(EU)に転換する技術を、東北大学が進めているPJ(PL:環境科学研究科 福島康裕教授)のコアメンバーとして取り組んでいる。具体的には、ゾル−ゲル法とソルボサーマル法の組み合わせによる、比表面積の非常に大きなメソポーラスTixZr(1-x)O2の合成と、TixZr(1-x)O2によるCO2吸着、CO2をEUへと変換する反応系へのCO2供給源としての機能化を検討する(Fig.8)。既往の研究において、CO2ガスとエチレンジアミン(EDA)から農薬等に利用されるEUを合成できることが報告されている。しかし、吹き込んだCO2ガスの飽和蒸気圧分の溶媒が気化し、反応効率が低下してしまう。そこで溶媒の気化を抑えるために、CO2をTixZr(1-x)O2の表面塩基点や細孔に吸着させ、EU合成の反応系へのCO2供給源として機能させることを研究している。

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